『 喜懼せし呂蒙、太史慈の背中と涙を流す 』
呂蒙の目の前に今あるは、見慣れた大きな背中。
その背に走るは、見慣れた大きな古傷。
呂蒙はまじまじと目の前の背を見つめる。
何処からどう見ても、紛う事無き愛しき太史慈の背中だ。
再びこの背を流すことをどれ程までに夢見たことだろうか。
かつては幾度もこの背に触れたというのに、始めて触れるかのような緊張に包まれ、呂蒙は固くなる。
おもむろに、呂蒙はその背を擦り始めた。
しだいに力を込め、かつてと同じようにごしごしと擦る。
少しくらい強く擦るほうが太史慈のお好みだ。
一生懸命、心を込めて丁寧に擦り、最後にざばっと湯をかけた。
それからそっと片手をあててみる。
手のひらには確かな感触。
夢ではいつも途中で消えてしまっていたが、流し終わってもそこにこの背中は変わらずにある。
太史慈が今確かにここに居るのだという喜びを、改めて噛みしめる。
「太史慈…」
感極まった呂蒙はギュッと太史慈の背中に抱きつく。
呂蒙の両のまなこからは止めどなく涙が溢れ落ち、太史慈をも濡らす。
「どうした?」
「ごめんなさい…、もう少しだけ…もう少しだけ…このまま……」
太史慈は、まわされた呂蒙の手に自分のそれを優しく重ねた。
「心配かけたな…」
「いいえ…」
「寂しい想いをさせたな…」
「いいえ…」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「いつかまた、こういうことはあるかもしれねぇぞ…」
呂蒙の身体がビクッと振るえる。
「それでもいいか?」
考えたくもないことだが、武人を愛した以上 常に覚悟しておかねばならないことだ。
たとえどんなに耐え難くとも…。
昨日までの呂蒙もそうして耐えてきた。
しかし再び太史慈を失うようなことがあれば、本当に耐えられるだろうか?
「いいも悪いも、僕にはあなたしかいません」
正直 想像もつかないが、自分から太史慈のもとを離れるなど決してあり得ないことだ。
呂蒙は更に太史慈に抱きつく力を強めた。
二人の間の隙間を全て埋め尽くそうとするがごとく…。
「このまま二人溶け合って、一つになれたらいいのに…そうすれば……」
「そうすれば、もう二度と離れることはない、か…」
「はい…」
「そうだな、それも悪くない、だが…」
「だが?」
「俺はお前がお前であるほうがイイ、俺は俺自身をお前のようには愛せねぇからな」
「!」
太史慈はニヤッと笑って、こういうことも出来なくなるしな、と首を回し呂蒙に軽く口付けた。
「変なこと言ってすみませんでした…」
呂蒙がようやくゆっくりと太史慈の背中から身体を離す。
「いや、俺とていっそお前を喰らい尽くして俺だけのものにしてしまいたいという妄執に取り憑かれたこともある」
「太史慈がそんなことを?」
「ああ…」
太史慈は呂蒙の方へ向き直り、右手を伸ばし呂蒙の頬に触れた。
「でもよ、例え死が二人を別つ時が来ても、心まで引き裂かれはしねぇ、そうだろ?」
「はい!」
それから太史慈は言った。
その時、過去を引きずるのではなく、共に未来へ進むことも出来るはずだ、と。
又、ただ今は共に生きて有ることを喜ぼう、とも。
それから二人は何度も深く口付け、そして身体全体で互いの存在を確かめ合った。
−了−
( 2007.10.10 里武 )
太史慈帰還妄想続き…。
こっちがメイン。
温存している間にすっかり饐えてしまいましが…orzこの人達って、ナニしたすぐ後に我が君に謁見したんですか…そうですか…。
いやほら、始めは謁見してから風呂入るって順番で考えてたもんで…orz#19で、太史慈の背中を膝立ちで流す呂蒙の横からのショット(全身像)がどうにも印象的で、
それをイメージしながら妄想してました。(そのまま後ろから抱きつきゃいいのにって思ったのは私だけですか?)始めはもっと簡単な小ネタとしてMEMOのほうにでもUPしようかと思っていたのですが、
昔「鬼○○」のCDドラマ版を聞いて、そのラストに色々考えさせられるものがありまして、
「ゼ○○○○ア」見てたらそのコト思いだしちゃって、もちっとしっかり書いてみようって気になりました。
(意味不明ですみません。)