『 偉丈夫、呉の都へ見事帰還す 』

都の入口の見張りの兵より『太史慈将軍帰還』の報が入るや否や、呂蒙は一目散に駆け出していた。

軍師としてそのような軽はずみな行動は控えねばならないのだが、もう会えないのだと諦めつつ心の奥底で必ず帰ってくると信じつづけた想いが今報われようとしているのだ。

心がはやるのも仕方がない。

しかも、太史慈が保護されたと早馬の知らせがあったのが三週間前。

当初は意識不明、医者が諦めかけるほどの深い傷を負っていたという。

ある程度 傷が癒えてからの帰還となるため会えるのは一月以上先だろうと思っていただけに、不意をつかれたのもあって呂蒙は冷静さを欠いた。

報によれば、太史慈はすでに凌家屋敷へと向かったらしいが、呂蒙が到着した時、まだそこにその姿は無かった。

しかし、間もなく随伴の兵士達と共に一人の大男が現れた。

五体満足とはいかない様相だが、間違えようもなく太史慈だ。

自然、呂蒙の目が潤み視界がぼやける。

更に体の力が抜けて崩れ落ちそうになり、すぐ近くにあった机に手を付きなんとか支えた。

今すぐ飛びついてしまいたい衝動にかられているのに、力が入らずもどかしい。

そこへ呂蒙を認めた太史慈が言った。

「軍師殿、太史子義、只今帰還した」

「!」

威風堂々とした太史慈の態度に、呂蒙は自分が軍師であることを思い出した。

兵士達の前でこれ以上軍師の自分が軽率なことをしては示しがつかない。

何より、軍師として認めてくれた太史慈の前でしっかり出来なくてどうするか。

なんとか自分を奮い立たせて、背筋をしゃんと伸ばした。

「よ、よくぞ戻られました太史慈将軍、皆あなたの帰還を待ちかねていましたよ」

「軍師呂蒙よ、俺の留守の間よくぞ我が君を支えてくれた」

二人の視線が絡み合う。

‘お帰りなさい、太史慈’

‘おう、戻ったぜ、へなちょこ’

互いの瞳が互いにしか判らないように語っていた。

「なんだよ、その他人行儀なあいさつは」

「まあまあ凌統、二人には立場というものがあるんだから…」

「陸遜の言う通りだ、屋敷内とはいえ兵達の前では仕方ない」

「いや目出度いねぇ」

いつの間にか、他の六駿達も屋敷に戻ってきていた。

皆の胸に、ようやく六人揃ったという同じ喜びが充ち満ちた。

「それでは、我々はこれで失礼します」

随伴の兵士達が役目を終え、持ち場の国境付近の駐屯地へと帰っていった。

すると突然、太史慈が呂蒙にもたれ掛かってきた。

「ど、どうなさいました? 大丈夫ですか?」

重たい体を必死で支えながら、やはりまだ傷はひどいのか? それとも旅の途中で病にでも? と焦る呂蒙にお構いなく、太史慈はそのままギュッと軍師を抱きしめた。

「風呂だ」

「は?」

「風呂に入りてぇ、もうくったくたでよぉ、埃まみれの汗まみれだ…」

太史慈は、他の兵士達の目が無くなるや否や、将軍の殻を脱ぎ捨てたのだ。

「承知しました将軍、直ちに用意させましょう、我が君への目通りはその後という事でよろしいでしょうか?」

あくまで軍師然と振る舞う呂蒙だったが、耳元で、

「背中…流してくれるんだろ?」

と囁かれれば、さすがにもうただ彼の恋人でしかなかった。

「お望みのままに…」

呂蒙もまた恋人の背中に回した手に力を込め、耳元で囁いた。

−了−

( 2007.10.07、2007.11.11微修正 里武 )

太史慈帰還妄想…(爆)
生存妄想増殖!!!  捏造MAX!!!
最終話を見て、その内容によってはボツにするか…とか思っていたら、陸遜が、陸遜が!
初めて陸遜登場させたのに、ラストにああくるとは…。
なんかもうこうなったら、ぶっちぎってやれ! てな気分にかえってなりまたよ。
呉が氷漬けになる前でも、陸遜光にならずに生きてるでも、お好きな状態を想像して下さい。
ただ、タイトルだけは切なくて『偉丈夫、呉の都へ帰還し六駿揃う』というのから変更しました…。

始めは謁見の間で二人は再会するってのを考えてたんですが、太史慈はボロボロの格好で帰ってくるってイメージなんで、
やっぱ身支度整えてからかなぁと考え直しました。(左目、眼帯とかしてるかなぁ…。)
それと結局、六駿ってみんな凌家屋敷に住み着いている、でいいのかな?

続き有ります。
てか、先にそっちの方を書いてて、補足としてコレ書きました。