飴玉(2006.10.20日記より)

オレンジの空を丸く切り取るコンビナートの黒い影。
ザアザアと足元に押し寄せる波。
名も知らぬ海鳥が数羽頭上をかすめ、溶けた赤はオレンジ色になり海の青と混ざり黒い影を構成する。
ウラン炉を思わせる全てが溶けた世界。
ボー。 どこか遠くで汽笛が聞こえた。
沢山の影が恨めしそうな目で私を眺めながら頭上を地平線へ向かって飛んで行く。
目まぐるしく流れる時間。
黒い木立はたちまち枯れ、更に黒くなり腐ってドロドロに溶けてしまった。
まるで絵本をパラパラとめくっているようだ。
何で私はここにいるのだろう?
私は絵本の住人だろうか?
それならば、絵本の中へ帰らないと…。
どうもしっくりこない。
私は絵本ではない気がする…。
それでは私は一体誰だ?
平面でないなら私はきっと立体に違いない。
絵になった世界は、私の考えとは裏腹に溶けるのを止めず、グニャグニャになり私を中心に球を構成する。

おや、麦藁帽子をかぶった子供がひとり走ってきたぞ。
蝉の声も聞こえてくる。
私はグニャグニャと薄れゆく意識の中で微かに汗の感触と陽の暖かさを感じた。
あぁ、夏だ。夏の匂いがする。
それこそが私の切望してやまなかった世界。
その世界が子供とともに私へ近づいてくる。

子供は絵本の横に置いてあった飴の袋から私を出すと口に放り込み、元気良く表へと走っていった。