会社からの帰り道、ふと横を見ると見慣れぬ脇道を発見した。
この5年間毎日通ったこの道にこんな脇道があったなんて…。
いや、あったのは知ってたのかもしれない。
脇道を見た今はそこに脇道があるのが当たり前で、もはや脇道がないと思っていたときの情景を思い浮かべることはできない。
背後を小学生がわいわいとはしゃぎながら通り過ぎていく。
彼らはまだ脇道の存在を意識しておらず、私のように道の前で佇むこともない。
ただ、いつものように家への帰路を楽しげに話しながら帰るだけだ。

影がすぅっと脇道の方へ伸びてゆく。
世界はオレンジ色に染まり、振り向かずとも日没が近いことがわかる。
頭上では塒へと帰る烏が不気味に喉を痙攣させながら飛び回っている。
何か名状し難い不安感が胸の奥で燻っている。
烏の声を聞く度に足が震え、心臓が飛び出しそうになる。

全てはこの道。 これを見つけたせいではないだろうか?
バカらしい。 これはただの道である。
そう考えれば考えるほど恐怖は加速度的に膨らんでゆくのだ。
何故なら私の家はこの脇道の先にある。
今まで回り道をして帰っていたが、脇道をみつけた以上この道で帰る方が遥かに効率が良いのだ。
これがただの道であると思っているなら、まずこの脇道で家へ帰るべきである。

思考の渦に完全に飲み込まれてしまった私は進むでもなく退くでもなく、ただじっとその脇道をみつめていた。
誰もいない道、誰も気づかない道、そこにはない道。
日が落ち全てが暗闇に包まれ、田舎らしい木製の電柱に水銀灯が灯った頃、ようやく私は歩き出した。
まるで巨大な不安の腕に引き込まれるように、誰もいない脇道へゆっくりゆっくりと…。
やがて私は完全に闇へと消え去り、脇道は私を含んだまままた景色へと戻るだろう。