眩暈 −2002.11.30日記(一部改変)−

眩暈…激しい眩暈。
街を歩いていると、急に意識が遥か後ろに落ていく。
世界が…スローモーションになり…モザイクのようにぼやけて……。

目が覚めると、ペラペラの紙人形が何人も除きこんでいた。
陽光を背に、太陽の光に負けないくらい不愉快な白さの紙人形。
口が動いている。 けれど、やつらは人形だ。
話などできるはずないし、僕にもそれが聞こえない。
起き上がろうとすると、ひとつの紙人形がそれを制止しようとした。
うざったい…。
僕は紙人形の腕を引き千切った。
他の紙人形が蜘蛛の子を散らすように逃げて行く。

のっそりと起きあがり、辺りを見渡す。
僕の倒れている間に、世界は全て紙に変わっていた。
見知ったオフィス街も、さっきまで歩いていた公園も全て紙だ。
ビルも道路も犬も猫も全て紙でできている。
自分の手を見てみる。 紙ではなかった。

どうして僕はこんな真っ白な世界にいるのだろう。
いくら考えても答えは出てこない。
一人思案にふけっていると、道路の向こうから紙の車がすごい勢いで走ってきた。
車の上にはサイレンのようなものがついている。 パトカーに違いない。
車から数人の紙の警官が降りてきて、何かを叫んでいる。
ははは、大笑いだ。
僕はあたかも小人の国のガリバーのように、紙の人形達を引き千切っていく。
舞い散る紙吹雪、本来ならこれは真っ赤な血吹雪なのだろう。

大勢の警官が紙の警棒を振り回している。
僕はそれを片手で受け止めると、その警官を一息で吹き飛ばした。
背後で紙鉄砲をペコペコ鳴らす音が聞こえる。
それは僕の背中に命中してぺシャという音を立てると、ハラハラと舞い落ちていった。

数分後、僕の周りには紙くずが散らばっていた。
警官も犬も猫も辺りには何もいない。
全くだらしがない。
近くのビルを除いてみる。 やはりみんな逃げた後だった。

軽く一服することにした。
恐る恐るポケットから煙草を出してみると、幸い紙にはなっていなかった。
服や靴をはじめどうやら僕の身の回りのものは紙ではないようだ。

紫煙が肺に染み渡っていく。
窓の外がなにやら騒がしい。
紙の窓では外が見えないので、ベリべリと窓を剥がして覗いてみた。
何やら機動隊のようなものが取り囲んでいる。
軍隊のお出ましか。
面白い、所詮は紙だ。 負けるわけがない。
僕は煙草をわきのテーブルの灰皿に投げ込むと外に飛び出していった。
最初に目に付いた紙人形を握り潰し、その後ろの紙人形を踏み潰す。
みんな同じような顔しやがって。 ムカムカする。
皆殺しにしてやる、そう意気込んだ僕の視界を黒い煙がふさいだ。

あぁ、そうだ、忘れていた。 紙だったのだ。
煙草の火は一瞬で灰皿を燃やすと、テーブルを伝い地面を焼いていったのだ。
足元はたちまち灰になり僕は奈落の底へと落ちていった。